1986年、世界銀行が道路の品質基準である IRI(国際ラフネス指数:International Roughness Index)を策定・提唱しました。
その最大の理由は、「世界中のどの国でも共通して使える、安価で客観的な道路評価の『世界で共通するものさし』を作り、投資対効果を正しく評価するため」です。

※世界銀行グループは、途上国の開発に必要な資金の融資や保証、知的支援を提供する国際開発金融機関です。戦後復興から業務が始まり、中所得国を主として扱う国際復興開発銀行(IBRD)に加え最貧国向けの国際開発協会(IDA)、民間向けの国際金融公社(IFC)、直接投資を支援する多数国間投資保証機関(MIGA)、投資紛争解決国際センター(ICSID)の5機関から成っています。
当時、世界銀行が直面していた課題と、IRIの策定に至った具体的な経緯は以下の通りです。
1.背景: 途上国向け道路インフラ建設への融資効果を世界レベルで正しく評価できる基準がなかった(各国の基準がバラバラであった)
1960〜1970年代、世界銀行は発展途上国の経済成長を支援するため、多額の資金を道路インフラ建設に融資していました。しかし、当時どの国も「自国独自の測定器や基準」で道路の平坦性(舗装の滑らかさ)を測っていたため、以下のような問題が発生していました。
● データの互換性がない: A国とB国のデータを比較できず、融資した資金が本当に道路の質を高めたのか客観的に判断できなかった。
● 経年変化が追えない: 同じ測定器でも時間の経過やメンテナンスの状態で測定値がブレてしまい、時間の経過による劣化が正しく追跡できなかった。
2.目的: 車両運行コスト(経済損失)を正しく計算するため
世界銀行にとって道路の凹凸(ラフネス)は、単に「乗り心地」の問題ではなく、「物流コストと直結する重要な経済指標」でした。
道路が荒れていると、車の消耗が激しくなり、燃費が悪化し、移動時間がかかります(これらを「車両運行コスト」と呼びます)。世界銀行が開発していた道路投資評価モデルで「この道路を直すと、どれだけ経済的メリットがあるか」を科学的に計算するためには、車両の挙動(揺れ)と直結した、信頼できる路面の凹凸データが必要不可欠でした。
3. 解決策としての「IRI」の誕生
そこで世界銀行は、1982年にブラジルで大規模な国際道路粗制度実験(IRRE)を実施しました。世界中の主要な研究機関や測定器を集めてデータを検証した結果、1986年に提唱されたのがIRIです。
IRIは、「標準的な車両(クォーターカーと呼ばれる仮想の1輪車モデル)が時速80kmで走ったときに、車体が上下にどれだけ揺れるか」をコンピューター上でシミュレーションして算出する数理モデルです。
この仕組みにより、以下の画期的なメリットが生まれました。
● 機材を選ばない汎用性: 高価な高性能測定車だけでなく、安価な手押し式の道具や、一般車に載せる簡易センサーから得たデータでも、数学的に補正して同じ「IRI値」に変換できるようになった。
● 時間で劣化しない不変性: 物理的な測定器の摩耗に左右されない計算式であるため、何年経っても世界中どこで測っても同じ基準で評価できる。
IRI導入の効果と普及
世界銀行がIRIを作ったのは、発展途上国へのインフラ支援において、限られた予算を最も効果的な道路の補修や建設に投資し、その経済効果を客観的に証明するためでした。現在では世界銀行のプロジェクトにとどまらず、日本(国土交通省の管理基準やNEXCO出来形管理など)を含む世界中の道路管理で「最も普及している標準指標」となっています。
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